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「ひとつだけ聞かせてくれ。俺のこと嫌いになったのか?」
「違う。それだけは信じて?」
菜穂子の反応が速いのが、素直にうれしい。俺は小さな笑みすらこぼしていた。
「慎司のことはもちろん好き。それは今も変わらないよ? でもスチュワーデスになるのは、小さいときからのわたしの夢なの。今留学するのは、そのための絶好のチャンス。わがままだっていうのはわかってるけど、もう決めたの。わたしはアメリカに行く」
一息に菜穂子が言った。途中から少しずつ自信も出てきたのか、最後はまるで何かの決意表明のようにさえ聞こえてきた。それは、菜穂子の意志の固さを示すのには十分だった。
「どうしても行くのか?」
それでもあきらめきれない俺が、すがるように聞く。菜穂子ははっきりとした声で答えた。
あきらめきれない俺は、その瞬間にぷつりと消えていなくなった。
「……そっか。がんばれよ」
菜穂子の頭をくしゃくしゃに撫でる。菜穂子は笑いながら、ぎゅっと目を閉じていた。
寄せてくる菜穂子の身体の温もりが心地良い。
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