序章

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背後から迫る人影が所属している組織は、自らの存在が表に出る事を嫌う。 その事を男は知っているのだ。 男は前を向き直す。既に、後数十メートル程で表通りに出られるというところまで来ていた。 その証拠に、ガヤガヤと、何人もの人の会話する声が聞こえ、明るい光が、今現在男が走っている路地に差し込んでいる。 (もう……少し……) 男はそう思った。 そして一瞬、安堵の為か、表情が和らぐ。 出口まで後数メートル。 目の前には、きらびやかに輝くビルの群れ、人の群れ。 そして希望。 (後……一歩!!) 速度を一切落とさず、勢いよく表通りに飛び出す男。 刹那、彼の心の中に、喜びが込み上げて来た。 それと同時に、今までの苦労、これからの不安も込み上げて来る。 ――しかし男は、それ等に気を取られ、ある事に気付かなかった。 余りにも、時間が長い事に。 それを人は、走馬灯と呼ぶ事に。 ドッ、と軽い音がした。
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