序章

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満面の笑みを浮かべていた男は、驚愕の表情で硬直していた。 理由は三つ。 一つは、まるで背中を軽く叩かれた様な衝撃。 そして、自らの胸部から生えた謎の赤い刺。 だがそれらが、男を絶望の淵へと叩き落とした原因かと問われれば、答えはノーだ。 最大の要因、それは、 「消え……た?」 胸部からの激痛も気にせず、男は呟く。 そう、消えたのだ。 男が今さっき飛び出した通りが、まるごと、始めから無かったかの様に。 変わりに、男の眼前には、腐ったゴミの散乱する、いつも通りの路地が広がっていた。 「ごぉ、オえぅ……」 目の前の事実を、事実として認識出来ないまま、男は口から、赤黒い、粘っこい液体を吹き出す。 余りの痛みに、自らの体重を支えられなくなった男は、すぐ近くの壁にもたれ掛かる。 「はぁ……はぁ……はぁ」 逃走時とは違う、殆ど呼吸と言えるのかも分からない、荒く、小さな呼吸音を上げる男。
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