26人が本棚に入れています
本棚に追加
/59ページ
満面の笑みを浮かべていた男は、驚愕の表情で硬直していた。
理由は三つ。
一つは、まるで背中を軽く叩かれた様な衝撃。
そして、自らの胸部から生えた謎の赤い刺。
だがそれらが、男を絶望の淵へと叩き落とした原因かと問われれば、答えはノーだ。
最大の要因、それは、
「消え……た?」
胸部からの激痛も気にせず、男は呟く。
そう、消えたのだ。
男が今さっき飛び出した通りが、まるごと、始めから無かったかの様に。
変わりに、男の眼前には、腐ったゴミの散乱する、いつも通りの路地が広がっていた。
「ごぉ、オえぅ……」
目の前の事実を、事実として認識出来ないまま、男は口から、赤黒い、粘っこい液体を吹き出す。
余りの痛みに、自らの体重を支えられなくなった男は、すぐ近くの壁にもたれ掛かる。
「はぁ……はぁ……はぁ」
逃走時とは違う、殆ど呼吸と言えるのかも分からない、荒く、小さな呼吸音を上げる男。
最初のコメントを投稿しよう!