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ズルズルと、地面に座り込んだ男は、やっと理解する。
自らの胸部を貫く刺が、背後からではなく、自らの体から生えている事に。
「……?」
もはや、男の頭の中にあったのは、恐怖でも、絶望でも無い。
『疑問』
ただただそれだけ。
荒く呼吸する男に、コートの人影が近付く。
人影は、瀕死の男を見ながら、こう聞いた。
「せめてもの情けだ。言いたい事があれば、今言っとけ」
感情の無い声だった。
ただ事務的に、ただ機械的に放たれる言葉。
しかし男は、その言葉を聞くと、震える口を開いた。
発しようとしたのは、目の前の人影に対する悪口か。
はたまた、いるのかも分からない家族に対しての感謝の言葉か。
もしかしたら、親友に対しての感謝だったかもしれない。
男は言葉を放とうとした。
その瞬間、
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