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そして私は、食されている蜘蛛の後ろに隠れるように屈み、糸を判別しながら穴を開けるべくナイフを使う。
獲物に夢中な今がチャンスだ。
私一人が潜れそうな穴を作り、荷物を洞穴に残して、細心の注意を払いながら蜘蛛の糸を潜ったが、地面まではまだ距離がありそうだった。
ゆっくりと壁際に寄り、物音を立てないように降りて行く。
バキボキと脚を噛み砕く音が聞こえて、私は上を見てみた。
尾の部分だけを残して、今は脚を食べている。
何とも残酷な話だ。
下に辿り着いた頃には、あの巨大な黒い蜘蛛は縞模様の蜘蛛の腹の中に消えていた。
そして縞模様の蜘蛛は糸を吐き出し、私が降りて来た穴までするすると昇って行く。
どうやら、例の商人を捕らえに行くつもりらしい。
私は足音を殺しながら、例の何かに向かって歩き出した。
「頭のいい人間だ」
くぐもった声が聞こえて、私はそれを睨み付ける。
先ほど消えた蜘蛛と同じ色をした紅い瞳。
「お前が『古き者』か?」
私の問いに、それはくつくつと言う笑いを浮かべた。
「それは我らが食らった『物』の名だ」
あっさりと返って来た答えに、私は顔をしかめる。
やはり。
心の中で舌を打ち、私はナイフをそれに向けた。
「仕方ない」
あっさりとした私の声に、それはのそりと体を起こす。
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