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「っ……」
びくん、と体が震えた。
肩を噛まれたからだ。
痛みと不快感から逃れようと、私は更に身を捩る。
肩口から滲む血を、人外の蜘蛛はペロリと舐め取った。
体を押さえ付ける力が強くなり、私は首だけを動かすと、熱心に血を舐める人外の蜘蛛を睨み付ける。
「……痛っ……」
下肢を探る手はそのままに、肩口から胸元に痛みが走り、私はぽろぽろと涙を溢した。
伸びた手が体をまさぐり、血を舐め取る舌先は戯れに体に吸い付く。
「美味い」
顔を上げた人外の蜘蛛は、泣いている私を見てニヤリと笑った。
続けて、押し倒していた私の体に覆い被さって来る。
足の隙間から尾の部分を向けられて、これは蜘蛛にとっても本気の交尾なのだと気付き、薄ら寒くなった。
足を押し開こうと躍起になっているその隙を見逃さず、私は利き手を振りほどき、握り締めたままのナイフを横に薙ぐ。
呆気なく、人外の蜘蛛の頭部が落ちた。
「冗談じゃない」
キンっと澄んだ音がナイフから響き、大きかった蜘蛛の体が縮んで行く。
食欲よりも、交尾に集中した人外の蜘蛛が悪いのだ。
私ならば、完全に身動きを止めるまで痛め付けただろうに。
丸裸になると言うアクシデントはあったが、不思議の力を手に入れた生物を倒す事は出来た。
私の横に、頭部を切断された蜘蛛の死骸がある。
蜘蛛の巣は消え、吊り下げられていた繭も姿を消した。
私は岩肌を登り、荷物を置いた穴まで戻る。
裸で戻るつもりはなかった。
人並みに羞恥心はあるのだから。
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