2人が本棚に入れています
本棚に追加
目的地への道すがら、商人は元気をなくして憔悴し切った顔をしていた。
先を歩く私の横には従者が並び、少し迷うような素振りを見せる。
「あの……」
言い難そうな従者に視線を向けると、従者は小さく息を吐いた。
「服は……」
躊躇うような物言いに、私はぴたりと足を止めた。
「丸裸にされた挙句、体中舐め回された」
至極あっさりと事実だけを話せば、従者はみるみる青ざめて行く。
「ま……まさか……」
どかっ。
前蹴りを従者の腹に叩き込み、私は振り返る事なく歩き出す。
「待って下さいよ!!」
腹部を庇いながら追って来る従者は、いつも不要な心配ばかりをする。
追い払うつもりだったはずが、失神した商人と共にしっかりと待ち伏せされ、やはりいつも通りに旅は続く。
私が生きている間に、この旅が終わればいいのだが。
心の中で嘆息し、私は空を仰いだ。
流れ行く雲の隙間から、太陽が顔を出す。
「今日は暑くなりそうだ」
溜め息混じりの呟きに、従者はにこりと微笑んだ。
「いいお天気になりそうです」
能天気な従者の声に、私はもう一度溜め息を吐く。
空の彼方も旅の行方も、進んだ先にしかないのだから。
最初のコメントを投稿しよう!