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町で知り合った商人も、急ぐ荷があるからと私達に同行している。
そもそも同行人が増えたのは、この従者が山賊を追い払ったのが原因だったはずだ。
襲われた商人を助けたせいで、私達は体よく用心棒的な立場にされてしまった。
人の良い従者は、自分が利用されている事に気付いていないのだろう。
厄介な事に。
「……」
ふうっと生暖かい風が吹いて来た。
それは馴染みのある匂いを運んで来る。
鉄錆びたような、甘くも不吉な匂いだ。
「腐乱した動物の匂いがするな」
私の声に、従者は洞窟の奥へと視線を向ける。
「……動物も鳥も見かけませんでしたが?」
少し困惑しているのか、従者の声にはいつもの張りがない。
商人は少し離れた所で荷を下ろし、濡れた体を拭いているので、今は私達に構っている暇がないようだ。
「私が間違えた事があったか?」
静かに問うと、従者は首を振って私を見下ろす。
体の大きなこの従者は、いつもならば体を曲げて私と視線を合わせないように注意しているのだが、何かの拍子にそれを忘れ去ってしまうらしい。
うらやましい脳味噌である。
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