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別に私が小柄な訳ではない。
ただ、従者の背が高いだけなのである。
「と言う事は……」
言い淀む従者を一瞥して、私はもう興味をなくしたかのように雨に視線を向けた。
私の旅の目的を思い出させる為に。
「気のせい……」
「日が沈めば分かる」
静かにそう呟くと、従者はそっと嘆息した。
雨足は強く、岩肌は滑りやすい。
岩棚から落ちて死ぬか、それとも獣に襲われて死ぬか、選択肢は限られている。
「どうする?」
ニヤリと笑ってやると、従者は苦虫を噛み潰したような顔をした。
おそらく、今の私はかなり底意地の悪そうな顔をしているのだろう。
自覚はしている。
しかしながら、今更自身の性格だけは変えようがなく、変える気もない。
「どうするつもり……ですか?」
従者に問われて、私は商人に視線を向けた。
「お前は好きにすればいい。私は私のやりたいようにする」
静かにそう呟くと、従者がひゅっと息を呑む音が聞こえる。
突き放すような物言いは、他人を気遣い過ぎる従者の為でもあった。
結局、見捨てる事を選ぼうとも、だ。
それが自身で下した結論ならば、私が口を挟む事ではない。
従者である前に一個人。
私は強制はしないと決めている。
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