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この薄暗い洞窟の中に私が求める物があるのならば、他の子細は些末な事。
うっそりと笑んで、私はまた視線を雨に向ける。
従者も商人の事も、私にはどうでもよかった。
すでに興味は別の物に移っていたのだから。
*
やがて辺りは闇に包まれ、私達は携帯用のランプに火を灯した。
商人はこの辺りの噂を聞いているのだろう、不安からか従者にやたらと話しかけている。
鬱陶しいので、私は離れた所に座って外の景色を眺めていた。
相変わらず、何の変哲もない岩ばかりの景観だが、叩き付ける雨音は強くなるばかりである。
この洞窟の先がどうなっているのかは分からないが、風の流れを考えるに、私達は風下にいるらしかった。
時々キイキイと言う微かな音が聞こえるのだが、従者にも商人にも聞こえていないようで、たまに笑いを交えながら談笑している。
どうやらここに棲む生物は獣ではないらしい。
自分で出した結論に顔をしかめていると、従者にも私の雰囲気が伝わったのか、声音が固くなって来た。
カサカサと言う微かな音が聞こえたのは、その時だった。
カサカサ、ともカチカチ、とも取れる僅かに岩を擦るような音。
嫌な予感に、私はゆっくりと腰を上げる。
出口付近にいる私が振り返ると、離れた所を照らす灯りが揺らぐのが見えた。
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