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ゴツゴツとした岩の隙間から、細い影が伸びている。
何かは分からなかった物の、私は従者を手招きした。
静かにと、口に手を当てて招けば、商人も何かを察したのかコソコソとこちらにやって来る。
荷物を背負い直し、私はランプの灯りを吹き消した。
途端に視界は闇へと変わる。
従者ではなく商人の手を取り、私は土砂降りの雨の中に身を晒した。
洞窟の横にある岩場には、せり出した部分がある。
その下に潜り込むと、私は商人を押し込めた。
足元は濡れているが、屈んでいれば頭は濡れずに済む。
カチカチ、と岩を擦る音が聞こえたのは、すぐ近くだった。
びくりと商人の肩が揺れる。
黒い棒状の物が、目の前の岩に伸びて来た。
咄嗟に従者が手を伸ばしたが、その時には既に商人の口から悲鳴が漏れていた。
遠くからも近くからも、岩を擦る音が聞こえて来る。
どうやら、ここにいるのは一匹だけではないようだ。
苦笑する私の横にいた商人の体が、何かに引っ張られて宙を舞う。
商人のけたたましい悲鳴が聞こえたが、私は無視する事にした。
岩肌に伸びる脚と大きな体が、穴から出て来た物の正体を物語っている。
しかも、どうやら共食いの最中であるらしく、最初に出て来た物よりも後から出て来た物の方が何倍も大きかった。
巨大な蜘蛛だ。
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