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夜目が効く私の目の前でそれは糸を吐き、自分よりも小さな蜘蛛を絡め取ると手繰り寄せている。
その中には、商人の姿もあった。
キイキイと言う音は、どうやら小さな蜘蛛が出した悲鳴であるらしい。
真っ黒な体を覆うように生えた毛は、毛ガニを彷彿とさせる。
黒光りする目は、どうやら大して見えてはいないようだ。
それとも、動く物にのみ反応するのだろうか。
聴覚は鋭いのだろう。
商人の悲鳴に正しく反応したのだから、それは推測出来る。
小さな蜘蛛達は、鳴きながら逃げていた。
ことごとく巨大な蜘蛛の糸に捕らえられながらも。
「……」
びちゃっと言う音が聞こえて、私は巨大な蜘蛛の足元に視線を向ける。
背中を踏み付けられた小さな蜘蛛が、ぴくぴくと体を痙攣させていた。
割れた尾の部分から、ぐちゃぐちゃと黒っぽい体液やら赤黒い中身やらが流れ出している。
商人の悲鳴は、まだ続いていた。
生きてはいるらしい。
さてどうするかな、と従者に視線を向ければ、小さな蜘蛛と睨み合っている最中だった。
何とも間抜けな話である。
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