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洞窟から出た巨大な蜘蛛は、辺りに糸を吐き出した。
それは近くにいた小さな蜘蛛を絡め取り、圧倒的な強靭さで辺り一面にいたはずの命を締め上げ、繭のような物を作り上げて行く。
商人の悲鳴が小さくなって行き、キイキイと言う耳障りな音もやがては途絶えて、隠れていた私達は巻き込まれる事もなく、巨大な捕食者はずるずると獲物を引き摺りながら、洞窟の奥へと入って行った。
私は小さなナイフを取り出すと、すれ違う寸前の商人の繭を切り落とす。
完全に他の繭が通り過ぎてから、それを切り裂いて商人を引っ張り出してみた。
どうやら気を失っていただけのようで、ぐったりとはしている物の、しっかりと呼吸している。
「面倒だな……」
小さく呟いて従者を見れば、珍しく同意を示すような顔をしていた。
しかしながら、このまま商人を放り出す気はないらしく、私の方は見ずに商人の体に異常がないかを調べ始める。
それはつまり、旅はここまでと言う事だ。
「私は行く。お前はそれを守ってやれ」
そう言うと、従者は勢い良く顔を上げた上に目を丸くする。
「まさか、本気じゃないですよね?」
震えるその声に、私が首を振って答えてやれば、従者は困ったような、悲しいような、嬉しいような、複雑な表情を浮かべた。
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