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「私の目的を忘れたか?」
静かにそう問いかけてやれば、従者は顔をしかめて口元を引き結ぶ。
葛藤と呼ぶよりは、迷っていると取った方がいいだろう。
そんな雰囲気だった。
「私は行く」
もう一度そう言うと、私は自分の荷物を背負い、蜘蛛が消えた洞窟の奥へと歩き出す。
今ならば、蜘蛛の足音を頼りに、最深部まで行けるかも知れない。
そしておそらく、私が探している物もそこ近くにあるのだろう。
私の旅には目的がある。
けれどもそれは、従者の目的ではない。
それに、目的の物に触れる事が出来るのは、護神刀と呼ばれるナイフを持っている私だけだ。
物音を立てないように注意して歩きながら、私は蜘蛛の後に続く。
中はかなり入りくんだ構造になっているらしく、幾つも別れ道があったが、その度に岩に目印を残して下って来た。
迷ってしまったら目もあてられない。
迷路のような穴をくぐり抜けて進んで行くのは、確かに楽な道程ではなかったが、終点らしい穴から外を見れば、そこは内部で空洞になっている場所らしく、下方にも何ヵ所か大きな穴が開いている様が見える。
ここが蜘蛛の巣になっている場所らしい。
高い天井を見上げると、吊り下げられた繭が大量にひしめき合っており、未だにゆらゆらと揺れている物もある。
そして、最深部の平らな場所には、螺旋状に伸びる蜘蛛の糸が見えた。
その奥まった場所に何かが見える。
岩場の凹凸に足をかけて両手で岩に掴まりながら、何とか少しずつ下降し、途中にある穴で休みつつ、それが見える位置まで降りてみた。
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