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雨宮さんは、驚いていた。
「そりゃあ……」
呟かれた言葉に、頭が殴られたような衝撃を受けた。
「……っ」
「すずめちゃん……? やっぱり、なにかされたの?」
そっと肩に、雨宮さんの手が触れた。わたしはそれを、力いっぱい振り払った。
「余計なことしないで」
「えっ」
「余計なことしないで! あなたが来なければ叩きのめしてあげる予定だったのに!」
「え、えっと……」
「ああいう単細胞は根に持つのよ。次にわたしを見かけたらきっとなんのためらいもなく襲いかかってくるに違いないわ。だからそんな気を起こさせないために徹底的に叩き潰さないといけないのよ」
頭に血が上っている。
「ご、ごめん……」
ちがう。
雨宮さんは悪くない。
はあ、とため息をつく。柄にもなく喋りすぎた。
たぶん、嬉しかったの。
助けてくれて。
「でも、女の子がそんな、叩き潰すとか、言っちゃだめだよ」
また、女の子。
どうしてこう、世の中の愚民どもはおんなだとかおとこだとかいう固定概念にこだわりを持つのだろう。女の子なんだから、男のこのくせに。
「雨宮さんは、男のくせに体力がないのね。それってどうかと思うわ」
仕返しとしてそういうと、雨宮さんは「あ、いや……」とまごついた。
わたしは、雨宮さんのなかで、「女の子」でしかないっていう、ただそれだけのことが、なぜかどうにも腹立たしくてしかたがない。
「善意が善意として受け取られるとは、限らないの」
わたしは踵を返した。
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