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「ああ、また来たんだね」
大嫌いな女に連れられて知ったこの場所には、いつもあなたがいる。
あなたはいつものように黒い髪を風に靡かせて、飾り気の無い服を着て、そっと廃ビルの屋上にいる。
優しげな笑みを浮かべながら振り返った彼――雨宮さんを見て、わたしは自分の奥底の何かが暖かくなるような錯覚にとらわれた。
「あきれた」
その錯覚とは裏腹に、口をついて出る言葉は冷たい。
いいえ、冷たくなくてはならない。
「またこの前みたいに死ぬつもりなの?」
初めて会ったとき、雨宮さんはこの場所で、同じように屋上の縁に腰掛けていた。
フェンスの取り外された屋上は、廃ビルということも相俟って自殺志願者にはもってこいの場所。
今まで何度かここへ訪れたけど、雨宮さんはいつだって、同じように腰掛けて、同じように微笑んでわたしを迎えてくれる。
「死のうとなんてしてないよ」
苦笑交じりに、雨宮さんが言った。彼の笑みは、危うい。つつけば壊れてしまいそうで、扱いに困る。
口から溜息がこぼれる。
「うそつき。また舌を切られたいの?」
「いや、本当だって」
慌てて雨宮さんが念を押す。
でも、違う。あなたはうそをついているわ。
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