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「屋上には誰がいるの」
吐息とともに言葉がこぼれた。
返答はない。盗み見るように雨宮さんを見ると、雨宮さんと目が合った。
「家まで送るよ」
雨宮さんはそういうと、何の違和感もなくわたしから離れると突然手を上げた。
驚いたが、雨宮さんがどうにも遠くを見ているのでわたしもつられて後ろを見た。普段は通らないはずの空のタクシーが、誰かを送った後なのか走っている。
タクシーはウィンカーをあげてわたしと雨宮さんの横についた。雨宮さんは紳士のようにオートで開いたドアを抑えてわたしに乗るように促した。
わかりやすいわ。
わかりやすく、雨宮さんは拒絶した。わたしの問いを聞かなかったことにした。
それが苛立ちを増強させ、わたしは乗り込もうとかがめた体を元に戻した。
「すずめちゃん?」
指摘しなければ直らない呼び名。
悪気のない表情。いつだって雨宮さんには悪気はない。だから余計に厄介。この苛立ちが空回りしているーー理にかなった、怒りではないということだから。
「歩いて帰るわ」
雨宮さんの体を押しのけてできるだけ早足でその場を遠ざかった。
どれだけ歩いても、雨宮さんは追いかけてこない。
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