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「よぉ、このまえのおじょーちゃんじゃないの」
まるで知り合いのように声をかけてきた金髪の男に首をかしげる。
あの古ぼけたビルから少し歩いた路地だ。相変わらずひと気の少ない、ああ、そうか。二週間前にわたしに乱暴しようとしてきた男だ。
男は今日は三人だった。二人は前回と同様だけれど、後ろの男は知らないひと。知らないというか、明らかに毛色が違う。グレーのスーツをきて、殴られたのか顔にあざをつくった中年の男性だった。
「あきれた」
あきれてものもいえないわ。
「カツアゲかしら。一体なにがそこまで楽しいのか不思議だわ」
中年男性は背の高い男に掴まれている。
口にして、自分がそこまで不思議がっていないことがわかった。
それもそのはずよ。わたしはうそをつくやつらの舌を切るのだって、何が楽しくて、だとか、頭がいかれている、だとか思われているに違いないのに。
「今日は相手してくれんのかい?ええ?」
ふと、考えた。
「ええ、いいわね」
わたしは頷きもせず、表情も変えず、かばんを肩に掛け直してコンコン、とつま先を鳴らした。
「なんだよずいぶんノリがいいじゃねえか」
背の高い男は口笛を吹いて、楽しげに口元を歪めた。汚い笑顔だ。
しかし金髪の男はもっと汚い。
下卑た笑いを浮かべて、みっともない歩き方でわたしの方へ近寄ると手を伸ばした。
「ちょうどよかったぜ、こないだのとこが痛くて痛くてしゃーねんだよ、なあ?」
こないだ?
こないだ、なにをしたかしら。
忘れてしまったわ。どうでもよすぎて。
わたしは伸ばされた男の手を掴み背中にひねりあげ、そのままアキレス腱の部分を強くローファーで蹴って踏ん張れないようにしたところで一気に加速して前進し、人がいるのかいないのかわからない建物のシャッターに男を激突させる。がしゃぁん、と音が鳴った。
止まるひまもなく声をあげさせるひまもなく、わたしは男の顎先をつかんで首をできる限りこちらがわにむけ、反対の手で口の中にカッターをつっこんだ。
「思い出したわ」
男は悲鳴をあげる間も無く口の中にカッターをつっこまれており、目をこれでもかというくらいに見開いていた。
背の高いほうの男はあっけにとられたようすで、中年の男も今のすきに逃げればよいものをぽかぁんとくちをひらいてわたしを見ている。
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