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「このまえはたしかペンを刺したんだったわね。どこだったかしら、忘れたわ」
「へへえ、ははひは」
男が何かを抗議した。カッターがこわくて口を閉じられないのだろう。
よだれがだらりと顎に垂れてきて、顎をつかんでいるわたしの指によだれがたれたのがわかった。
わたしはあえて宙に浮かせていただけの刃先を、軽く舌にあてた。男が「んあああ!」と悲鳴をあげる。
「なにかしら。遊んで欲しかったのでしょう」
ああ、でも。
あきたわね。
「おい、落ち着けよ。そんなバカを殺しても人生棒に振るぜ?」
背の高い男が話しかけてきた。
そちらを振り返ろうとして、わたしは金髪の男の舌先をビッと切った。
「んがああああああ!!!!」
男は口を抑えて地面にのたうちまわった。
「あら、話しかけてくるから驚いて切ってしまったわ。あなたのせいよ」
ひくっ、と背の高い男が顔を引きつらせたのがわかった。金髪の男が口からダラダラ血を流していて、おおげさに今にも死にそうな声をあげてのたうちまわっているから、死ぬと思っているのかもしれない。
わたしがそんなへまをするわけないのに。
「俺のせい?勘弁してくれよ。なあおっさん」
中年の男性は完全に手が離れているのに逃げない。
「き、きみ。高校生かなにかだろう。こんなことをして、親御さんが悲しむぞ。ばかなことはやめて、」
「なんのつもり?」
あなたのような人種が一番嫌いよ。
正しさという仮面をかぶり、正義を振りかざす。カツアゲに腰を引かせて殴られていたくせに、相手が年はも行かない学生となればこの態度。
わたしはさして抵抗する能力のない無力なそれの舌を切った。
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