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金髪の男のように攻撃する意思がなかったので簡単だ。おじさんは金髪の男がしたようにぎゃああと声をあげて口をおさえる。
問題はおじさんに詰め寄ったことで背の高い男の横に、やや背を向けてしまうことだったけれど、わたしはすぐさま背の高い男にカッターを突き出した。男は指輪をはめた手でわたしを殴ろうと構えていたが、首元にカッターがすれすれにむけられているので動きを止めるしかなかった。
本当なら眼球すれすれに向けたいところだけれど、男の背が高すぎてそれはできない。
「あんた、どうかしてるよ」
「勘違いしているようだけれど、舌を切って死ぬというのは、切れた舌がのどにつまる窒息死か、出血多量によるショック死のどちらかよ。すこし切った程度じゃ死なないわ」
「少し?俺には少しに見えねーよ」
男は二人の舌を切られた男を見て、構えていた拳をゆっくりおろした。
「冗談。俺は心臓が弱いんだ。確実にショック死する。まだ死にたくないね」
からりと笑って両手をパーに広げて挙げた男に、わたしは首を傾げる。
死にたくなくてこの男らはのたうちまわって口を押さえているのだろう。今までそんな表情は何度も見てきた。
しかし目の前の男のように、半ば開き直ったように死にたくないという人は初めてだ。
「信じるとでも?」
「ああ、証拠ならある」
と男がポケットに手を入れようとしたので、首にすれすれ当てたカッターの刃を今度はしっかりあてると男は手を止めた。
「動かないで」
スタンガンでも出されたら困るわ。
「参ったな。どうやったら信じてもらえる」
「あなたにも言ったけれど、わたしは金髪の男にも言ったのよ」
背の高い男はわたしのやや後ろを見た。死ぬほどの傷ではない。反撃をうかがって背後にいた男が、じり、とあとずさる音がした。
「すげーな」
はは、となにがおかしいのか背の高い男は笑った。
「おいバカ、逃げろよ。お前のせいで死ぬのはいやだ」
「で、」
「ケーサツでも呼んでこいよ」
男はさらりとそういうと、後ろの男はバタバタと逃げて行った。
「薄情なともだちね」
「ともだち?おれはバカをともだちにする趣味はねーよ」
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