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「 あなたが人をバカ呼ばわりできるような偉い人だとは思わないわね。どちらも同じくらい浅ましくこっけいよ」
「だとしたらあんたはもっとひでーよ。犯罪者」
切ってやろうかと思った。
できなかったのはショック死するというたわごとを信じたからではなく、じろりとわたしを見下ろす瞳に隙がなかったから。
「言ったでしょう。その程度じゃ死なないと」
「でもあんた、死んでもいいって思ってんじゃねーの?ゴミを見るような目しやがって」
コイツハ敵ダ
警鐘が響く。この男は敵。
「動かないで。それ以上何か言ったら舌を切るわよ」
「舌?首の間違いだろ」
は、と男は笑った。
笑って、おろせよ、と低く唸る。
「聞こえないの?その口を閉じなさい」
「いやだ。おれはまだ死にたくない」
「動かないで」
いやだ、と男は言って、動いた。
なんなの、この男。灼熱に溶かされた鉄のように、熱いなにかが男のまわりをうねっていた。
男は手に刃が食い込むのもお構いなしに、カッターを握ってゆっくり下ろした。
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