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「あきれた」
動揺が滲んでいないか心配だわ。
こんなにも、生きたいと渇望するものにであったのは初めて。
むろん、わたしにこのように許しを乞う人物はいた。そのたびにわたしはああ愚かで無様だわと、それこそ心底あきれかえったものだった。
「なにがそこまであなたにさせるのかしら」
すると、男は急にぱっと顔をあげた。そのやけに明るい表情に戸惑いを隠せない。
「おれのこと、殺さないか?」
「あきれたわ。あきれてものも言えないわね」
「そうか。殺さないか。よし、」
男は立ち上がって膝をはらうと、
「飯を食いに行こーぜ」
「は?」
「ちょうど腹減ってんだよ。おいおっさん、金よこせ」
支離滅裂だわ。
あの濃密な熱はどこへいったのか、男は映画の続きでもみるようにあっけからんと、カツアゲを再開した。
さすがのおじさんもついていけないのか、口から血を流しながらぽかんとしている。
「だーから。金よこせ。おれは今から飯に行くんだよ、ああ?」
「わたしはそんなこと一言も言っていないわよ。だいたいなぜあなたと食事になどいかなくてはならないの」
「なんだよ。死の瀬戸際までやりあったふたりは和解するもんだろ」
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