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「すずめちゃん」
肩を揺さぶられ、目を開ける。
眠っていたのね、と思うよりも、ぶるるっと寒さを感じるのが早かった。
目をあけて、顔を上げると、そこには雨宮さんの顔があった。明かりの少ないその場所でも雨宮さんの顔はよく見えた。
というのも、足元からオレンジ色の光りが照らしていて、どうやら雨宮さんが持ってきた懐中電灯が上向きに置かれているらしかった。
「よかった。ダメだよ、女の子がこんな時間にひとりで」
こんな時間。
「今は何時なの?」
「11時。深夜の」
はあ、と雨宮さんは安堵したようなため息をこぼして、すぐに携帯電話を操作し、耳に押し当てた。
「あ、もしもし。見つかったよ。うん、これから家まで送るって伝えておいて」
一体誰と連絡をとっているのだろうか。
こぼれ聞くに女の声。しかもきんきんとやかましい、来栖尊の声だ。
「なぜここにいるの」
「それはこっちのセリフだよ、すずめちゃん。こんなところで眠ってるなんて」
とにかく帰ろう。家まで送るよ、と雨宮さんはわたしに立ち上がるように促したけれど、わたしは地べたにお尻をつけたまま動かなかった。
あたりは夜。日も沈み、また登りもしない。あるのは月だけ。なぜ雨宮さんがこんな時間にいるのか。
「すずめちゃん」
雨宮さんはいつもの気弱な声音に、ほんの少し苛立ちを含ませていた。まるで聞き分けのない子供に苛立つみたいなその態度に、わたしは苦い泥を口に含まされたような気になる。
「気安く呼ばないで」
寒いわ。それに、こんなところに長い時間座っていたものだから体がばきばきだった。
なぜ自分がここに来たのかも、いつのまに眠ってしまったのかもあやふやだ。
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