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廃墟の夜は冷たく、まばらな街灯しかないその場所はやけに暗く、まるでずっと田舎に来てしまったようだ。昼も人が少なく、夜も起きることはない。集合住宅には眠りに帰るだけのような住処が散らばっているのだろう。
どの時間も活気がない。住宅街の中の、ほんの一角。忘れ去られたように存在するその通り。
だから、こんなにも夜は冷たいのだろうか。
「雨宮さんがなぜここにいるの?」
「すずめちゃんを、あ、篠原さんを探しに来たからだよ」
「なぜ?なぜわたしがここにいるとわかったの?」
「すずめちゃん、携帯家に忘れたんでしょ。すずめちゃんの携帯にみことちゃんが電話したんだよ。そしたらお母さんが出て、すずめちゃんがまだ帰ってないって」
わたしは柄にもなく顔をしかめた。
なぜあの女がわたしの番号を知っていて、わたしに電話をかけたのか。そしてよりにもよってなぜ携帯を忘れたのか。
いつもははれものに触るように近寄らないくせに、こういうときばかりは母親のような顔をするあの女にも苛立つ。
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