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しん、と沈黙が降りる。
「帰ろう、すずめちゃん。送るよ」
雨宮さんは座り込んだままのわたしに手を差し出した。
つかまらなければならない理由なんてないけれど、わたしはその手をとった。
男のものとは思えない、細くて長い指。現場仕事をしていたことがあるというだけあって、わたしを起こすためにいれられた力は強かった。
雨宮さんが懐中電灯で足元を照らす。まるで肝試しでもしているかのよう。
それから、会話もなく、わたしたちは手を繋いだまま歩いた。廃墟を抜けると雨宮さんは懐中電灯を消したけれど、手はつないだままだった。
あの男に会うのではないかと思うとおそろしかった。わたしが亜雨ことがおそろしいのではない。報復にあうかもしれないのがおそろしいのではない。
あの男と、雨宮さんが出会ってしまうのがおそろしかった。
歪のような。間違いのような。それでいて、違和感のない。
そんな帰り道だった。
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