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「あなたがどうしたいのかなんてわたしは知ったことではないわ。そんな後ろめたそうな顔をして。なら文字通り、真っ当に生きて見たらいいでしょう。そんな切迫つまっているように空虚なことを繰り返して、あなたはとっくにそれに気づいてる。ちがうかしら」
「空虚、か。そうだな。虚しさみたいなものは最近ずっとある」
バカバカしい。わたしはこの男の人生相談にのるために待ち伏せされ、こんな同じ制服を来た連中の目にさらされながら長話をしているというの。飛んだ、無駄な時間ね。
「あんたにはそうなってほしくないのかもしれない」
ああ、なるほどね。
「そう。なら話は早いわね。そういうのなんていうのか教えてあげましょうか?偽善、っていうのよ」
言って、わたしら袖に隠していたボールペンの先をむけて踏み込んだ。男はほとんど反射で手を前につきだすかっこうになり、手のひらにボールペンが刺さった。
貫通まではしなかったけれど、手を離してもボールペンは男の手のひらに刺さっていた。男は痛みに顔をゆがめはしたものの、歯を食いしばっており悲鳴はあげなかった。
さっきはみっともなく胸を押さえてな喘いでいたくせに、よくやるわね。
「よかったじゃない。わたしはあなたを切らないという保証はどこにもないし、あなたは自分の過ちに気づけた。わたしを追いかけてきたことよ」
「いや、あんたは、おれを切らない」
なにを寝ぼけたことを。
手のひらにボールペンを刺されたことを忘れたのかしら。現に今刺さっているというのに。
と思ったら、男はボールペンを力任せに抜いて地面に捨てた。アスファルトに転がるボールペンと、男の血。
「おれはな、だれにも、奪わせない。だってそうだろ、おれは
ただでさえはやめに死ぬんだ。なのにだれかにくれてやるわけねーだろうが、え?」
なにかに怒っている。
そう思った時、じり、と腕に鳥肌がたった。
いつのまに、消え失せていたあの熱が再発している。
それも、それまでとはちがって、おそろしいほど陰鬱に。
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