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「あんたは猛獣としてなにを守ってる。自尊心だろ、クソみてえな」
いつもならば問答無用で舌を切っていた。けれどわたしは動けなかった。
まるで呪詛のようだ。
呪詛のように、死のにおいを漂わせている。
「傷ついてもいいじゃねーか。踏みにじられたって、あんたは普通に生きられる。でもおれにはないんだ。時間がよ。虎視眈々となんて言ってられねえんだよ、わかるか?」
「……わからないわ。あなたは結局わたしにどうしてほしいの」
「やめてほしい。おれの命を脅かすなよ。殺すなよ、おれを」
「あなたが、わたしの前に現れなければいいのよ。わたしから出向くような真似はしないのだし」
そういうと、男は呪詛のような念を出すのをやめて、困ったように視線を泳がせた。
「ああ、いや、ちげえよ。ちがくてよ。こんなこといいに来たんじゃなくてよ」
まるで他人が乗り移ったりしているように、男はうろたえて髪をぐしゃぐしゃとかきまぜた。
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