畏怖と尊敬と嫌悪

11/19
前へ
/52ページ
次へ
「あんたは猛獣としてなにを守ってる。自尊心だろ、クソみてえな」 いつもならば問答無用で舌を切っていた。けれどわたしは動けなかった。 まるで呪詛のようだ。 呪詛のように、死のにおいを漂わせている。 「傷ついてもいいじゃねーか。踏みにじられたって、あんたは普通に生きられる。でもおれにはないんだ。時間がよ。虎視眈々となんて言ってられねえんだよ、わかるか?」 「……わからないわ。あなたは結局わたしにどうしてほしいの」 「やめてほしい。おれの命を脅かすなよ。殺すなよ、おれを」 「あなたが、わたしの前に現れなければいいのよ。わたしから出向くような真似はしないのだし」 そういうと、男は呪詛のような念を出すのをやめて、困ったように視線を泳がせた。 「ああ、いや、ちげえよ。ちがくてよ。こんなこといいに来たんじゃなくてよ」 まるで他人が乗り移ったりしているように、男はうろたえて髪をぐしゃぐしゃとかきまぜた。
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加