或る一夜の過ち

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         夜もますます深さを増して、怪しげな空気をあたりに漂わせている。  初めはこの一帯も、弱々しいしずくがぽつぽつと降るのみであった。  だが、きまぐれな空は、雨脚をより一層強めて地上にこんこんと降りそそいだ。  泥濘に馬蹄を沈ませながら、颯爽と馬を駆る男――。  その表情から察するに、闇の不気味な静けさと、霖雨にそぼぬれる不快感とで、心身ともにすっかり疲労しきっていたようだった。  男は、常緑樹が深々と道をおおい尽くす一帯にさしかかった。  滂沱たるしずくに打たれながら鞭をふるう。  急げ急げよと、水飛沫をあげて、街道を駆け抜けた。  と、しばらくしてから、道端が開ける。  ふるびた小屋が視界に飛び込んで来た。  男はゆっくり手綱を引く。  一挙一動が無駄の無い流麗な動作であった。  小屋の奥隣には古びた小さな厩(うまや)があったので、男はそこに馬を繋いだ。  鞍や腹帯などの装着具を一つ一つ丁寧に外して、水の滴りで艶やかな光を放つ馬体をざっと布で拭う。  
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