或る一夜の過ち

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         男は窓の外へ意識を向けた。  夜の静けさを打ちやぶる涙の群集。地上を染め濡らし、空のなげきを奏でるもの。その勢いはとどまるところをしらない。  天候のくずれを予測していたが、これほどとは思いもしなかったのだ。  昨日、蜂などの昆虫が低く飛ぶ様や、山笠がもや掛っているのを遠目で捉えており、そういった予兆から、荒天へと傾くかも知れない――肌で感じ取っていたのだが。  男はふと思った。  なにか火をおこすものはないだろうか?  暗がりの中を探しはじめる。  その目はすでに、くらやみの世界へ順応していた。  寒さにふるえる身体。  そして、いらだちを募らせる湿気。  男は頬や額に張りつく髪の不快感を、早く取りのぞきたくて仕方なかった。  髪をかきあげたその時、背後にうごめく何者かの気配を感じとった。 (何か……いる)  男のくちびるがかたく引きむすばれる。    
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