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博士のかねてからの夢は、世界平和である。
「ワシがぜったい世界を平和にしてみせる」と、口ぐせのように言う。
「もう、としも歳じゃ、金や女にはたいして興味がない。ほしいのは名誉。ノーベル賞をもらって、後世に名を残してみせる」
動機は不純だ。
しかし、世界平和がいいことに間違いはない。
おれはその夢を実現させるため、助手として力を尽してきた。
大学に通うかたわら、博士と二人三脚で研究の日々。――タイムマシンの開発である。
これさえあれば、過去に戻って戦争の原因を取り除くことができる。未来から、高度な医療技術を学ぶことだって。
もちろん、簡単にいかないのは覚悟していた。なにせ博士は貧乏なのだ。
つまり、これまでに大した発明はしておらず、研究費も少ないということ。二重の障害である。
最初の頃は、完成の気配すらなかった。ガラクタを組み立てているような状態。動きも、しない。
進捗(しんちょく)具合は、まさに牛の歩み。
マシンが作動するまでに、三年の月日を要した。
作動するようになってからが、もっと大変だった。
ただのガラクタなら何の被害もない。中途半端に出来上がったタイムマシンは、むしろ凶器そのもの。
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