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おれは切り口上気味に説明する。
「個人的なことです。大学を無事卒業して、ちゃんとした会社に就職したい。親孝行もまだだ。苦労をかけっぱなしで。燃え上がるような恋愛もしていない」
「さっぱり意味が分からない」博士は目をしばたいた。
「きみ、気は確かかね」
「はい。だからこそ」おれはハッキリ言ってやることにした。
「乗りたくはないのです」
「遠慮がちなのは、きみの悪いところだ」
まるで話が、通じてない。
おれは大声でわめいた。
「遠慮なんかじゃない。嫌だ嫌だ嫌だ、ぜったいに乗りたくない」
「里中くん」博士はおれの両肩をつかんで揺さぶった。
「遠慮じゃないとしたら、なんなんだ。乗りたくない理由というのは。詳しく、説明してくれたまえ」
「詳しくもなにも」おれは博士の腕を振りほどいた。
「死にたくない。命が、ほしい」
「誰もきみを殺そうとはしていない」博士は諭すような調子である。
おれは太股をパシリと叩いて、床を踏み鳴らした。
「たった今、したじゃありませんか」
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