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手の中にあるのは、傷付き、ややくすみを帯びたタグペンダント。陽の光に反射する度、あの頃を思い出させんばかりに鈍く光る。
「くそっ!」
汚い言葉と共に、ぐしゃりと握り潰す様にし天高く振り上げた。
投げ捨てようと決めたのに数秒の躊躇いが、手の中にあるそれを放そうとしない。
このタグペンダントが、唯一彼を繋ぎ止めていた。
振り上げたままの手をゆっくり下ろすと胸の辺りで握り締める。掌に爪が食い込む程。
何度捨てようと思った事か。だが、いつも寸でのところで手が止まる。
きっと、自責と思い出との間で起こる葛藤がそうさせるのだろう。
ひとつ深い溜め息をつくと、胸の前で握り締めた手をそっと開く。
今更、神なんてものを信じてなどいない。でも、いつの間にか癖になっていたその仕草。
「……久しぶりに、会いに行くか」
殺風景な部屋に広がる静寂。
今日も、いつもと変わりない一日が始まる。
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