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それは温かな血の雫となり、腕を伝い流れ落ちると同時に水溜まりにひとつの波紋を作る。だがそれも一瞬の事。波紋と共に水溜まりへ溶け込み消えてゆく。
一滴の汗が頬を伝う。
逃げ道は要らない。
選ぶべき道は、答えは既に決まっていた。
何故こんな事になったのか。
(――俺があの時【あんなこと】言わなければ、こうはならなかったのか?)
そんな事、今更考えたところでどうしようもない。
『僕は、皆とは違うから』
あの時、彼の言った台詞。
今も確かに焼き付いている。茶褐色の翼と、笑っているのにどうにも悲しげなあの瞳。
今まで誰も何も信じられず、関わりを持たないでいた少年が思う事はひとつ。
助けたい――。
例えこの先何が起こり、待ち構えていようとも。
それが彼の下した決断であり、覚悟。
今はただそれだけを胸に、入り組んだ迷路の様なこの道を突き進む。
もうこれ以上失わない為に。
これは運命に翻弄されながらも抗おうとする一人の少年と、彼を取り巻く数多の者の物語。
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