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その娯楽室の中は、意外と広々とし、落ち着いた空間だった。部屋の中央付近にはビリヤードの台があり、出入口の真正面にはチェス盤、向かって右側にはダーツの得点盤が掛かっていた。さらに左側にはソファーとテレビがある。
そこには、殆どの人物がいるようだった。泉谷さんはソファーに座って本を読み、楠木さんと島田さんはチェスに没頭し、杉下さんと浅見さんはビリヤードに熱中している。ここにいないのは、御手洗さんと神宮寺さん、それに美佐江さんだ。
入るのと同時に、部屋の片隅に置いてあった、古そうな柱時計が午後8時を告げた。
「お、野瀬くん。もう出たかね?」
楠木さんは、僕に気づくと笑いながらそう言った。どうやら、チェスは楠木さんの方が戦局は有利らしい。島田さんはかなり深刻そうな表情を浮かべている。
「ええ。いいお湯でした」
「それはよかった。――お、もうこんな時間か。そろそろチェスも一段落しそうだし、夕食にでもするかい?」
楠木さんは柱時計の方をチラリと見てから、そう言った。
「夕食はいつも誰が作ってるんですか?」
僕は、楠木さんに近寄りながら、そう訊いた。チェスを見てみると、どうやら楠木さんがチェック(王手)を仕掛けている場面らしかった。
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