6気付きたくない恋心

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嵐が仕事してる間に買い物を済ませ、晩ご飯を用意する私。 結局、上手く彼に踊らせれている。 ま、別にいいんだけどね。  そんな自分が少し、愛おしくさえも思えたから、鼻歌さえ出てきそうなくらい、ワクワクした気持ちで夕飯を作り、嵐を待っていた。 9時過ぎ頃に嵐からのメール。 マンションの下にいるとのこと、すぐに私はロックを解除して、玄関の扉を開けた。 「ただいま~~~、なんちゃって」 香水と、タバコの匂いを振りまきながら登場した王子様は、部屋に入るなりテーブルの上に目が釘付け。 「これ、食っていいの?」 「誰のタメに作ったと思ってるの? 久しぶりの料理だから、味には自信ないけど、どうぞ」 思い切りはりきって、作りすぎた料理。 いつもなら二日酔いでグダグダに過ごすはずの休日を、嵐はこんなにも楽しい一日に変えてくれた。 隣にいなくても、今晩の会える約束をしただけで、私の週末はとても有意義になったんだ。 買い物をしてる間も、料理をしてる時も、私は嵐を思い出して、楽しくて、少し胸を弾ませながら、まるで初恋のような気分を味わっていた。 「いっただきまぁす」 「仕事お疲れ様でした」 「マジ疲れたー、癒してくれる?」 上目使いで嵐に言われると、妙に色気を感じてドキドキしてしまう。 「後でね」 そう答えるのが精一杯だ。まるで、初恋みたい。 嵐の眩しさ、まっすぐさが私を少女に変えて行く気がして、胸が高鳴る。 だけど、どれだけときめいても、私が不倫をしてる事実は消えない。 「明日も来ていい?」 「ダメ、仕事あるから」 毎日嵐に会うと、私が壊れてしまう。 不倫に疲れた私は、どんどん嵐を頼る。 だけど嵐は頼りにしちゃいけない。とりあえず今は私になついてるみたいだけど。 いつ、飽きるかもわからない。 むなしい恋はしたくない。だから、嵐に対して確実に芽生えつつある気持ちを押し殺した。 「じゃあさ、仕事終わったら連絡してよ。電話くらいならいいだろ?」 「ん」 恋人なわけじゃない。 だけど、明日の約束をくれる嵐が好きだ。 部長とはまた違う感情。 弱って来たかな。 「なんかうれしそうじゃねーな。オレもしかして迷惑?」 少し不安そうな嵐の表情。そんな顔、見たくないよ。だからあわてて、否定する。 「迷惑なんかじゃないよ、うれしいし」 「…じゃ、電話する」 「うん」
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