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愛してるの言葉を口にするには、とても勇気がいるの。
その一言で、全てが終わるのを知っているから。
大人になればなるほど、複雑に絡み合っていく交友関係の構図。
私の矢印は、とんでもない男へと向かって放たれている。
会社の上司で、妻子持ち。
別に不倫なんて世間じゃ普通だろう。
でも、どんな普通の恋愛だって、一方通行の思いは苦しい。
何年も、ずっと好きで、やっと結ばれた時は幸せだった。
だけど、彼はすぐに家族の元へと帰ってしまう。
今の嵐みたいに腕枕なんてしてくれない。
愛の営みの後は、まるで私の匂いを消すかのようにすぐさまシャワーを浴びて、帰ってしまう。
何度もホテルの部屋でそんな彼の背中を見送った。
まだ、私の体は火照っているのに、彼には届かない思い。
やばっ、あんなに激しい運動をしたのにまだアルコールが体内に残ってるのかな?
目頭が熱くなってきた。
思い出すだけで、泣きたくなるような恋なんて、しない方が楽なのに……。
気持ち良さそうに眠っている嵐を横目に、私はこぼれかけの涙を自分の指で拭った。
泣くもんか。
こんな所で泣くくらいなら、最初から恋なんてしなければよかったんだ。
だから、泣かない。
絶対に泣かないんだ。
言い聞かせるように、強く強く心に思い、私は嵐の腕枕の中で無理矢理に眠りについた。
レム睡眠くらいだったのだろうか?
フワフワと夢と現実の狭間を気持ちよくさまよっていると、携帯が奏でる音楽によって、阻止されてしまった。
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