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2テイクアウト
「そろそろ遅いから、オレは帰るな」
会社の飲み会で、いつも部長はお金だけを置いて先に帰る。
「部長ってば愛妻家ですねー」
そんなからかいが飛びかう中、あなたは苦笑いをして店を出るんだ。
私の送る、帰らないで、淋しいよのテレパシーも届かなまま。
どこもかしこもウソと愛想ばっかり。
社会人になるたび、もっとウソが増えるのかな?
部長と私はいわゆる不倫関係。
もう5年も続けている、だけど彼は会社では愛妻家で通ってる。
おかげで不倫がバレることもなく、長く続けていられるわけだけど、毎回こんな会話を聞く私には辛い以外何者でもなかった。
そんな事を考えながら飲んでいたから、頭が少し痛くなってしまった。
っていうより、酔って来た。
「ごめ、なんか気持ち悪くなったから先帰るよ」
隣に座るあすかに小さな声で挨拶をして、店を出た。
外の空気はかなり涼しく、酔った頬を冷ましてくれる。
この直後に嵐との出会いが待ってるとも知らずに私は暢気に深呼吸。
「あ、気持ちい」
一人で外に出ると、思ってる以上にアルコールに犯された思考回路が、足取りを狂わせている。
浮かれた気分のまま歩いていると、前から華やかなオーラをまき散らして歩いている男の子がいた。
その後ろには、隠れるように数名の女の子がいる。
私はフラフラと誘われるように、彼の元へと近づいていく。
まるで、吸い寄せられるように……。
あ、すれ違う。
そう思った時、甘い香水の匂いに混じって、タバコの匂いが鼻先をかすめた。
この匂い、部長と同じ。
「ちょ、…」
いい匂いだなぁ、だなんて思いながら足を動かすけれど、前に進まない。
「危ないよ?」
どうやら、私はモロに彼に体当たりしていたようだ。
「んー?」
彼の顔をのぞき込むように見た。
うわっっ、すっごいイケメン。
でも、懐かしいようなどこかで見た感じがする。
「かなり酔ってるっしょ?」
彼はそのキレイな顔でにぃっと笑顔を見せた。
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