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静かな波の音と、ラジオから流れる名前も知らない曲が2人の間に流れていた。
「んー。そろそろ、行かなきゃかな」
カヤは上体を起こし、背筋を伸ばした。
時刻は4時近くなり、東の空はまた明るくなってきていた。
そういえば、俺も今日はエリカ先輩に合いに行くんだったな………
「俺も、そろそろ行くよ」
俺も起き上がった。
「明日も会える?」
昨日と同じ質問。同じ声。同じ顔。
「俺は、またここに来るよ」
「うん。私も来るね」
同じ笑顔。
カヤは立ち上がり、いきなり俺の額にキスをした。
「おやすみ。光君」
俺はびっくりして、声が出なかった。
なんとか「おやすみ」とは伝えたと思うが、俺自身は上の空だった。
そんな俺を見て、くすっ。と笑ってカヤは走って行った。
カヤの背中を見送りながら、俺はカヤの唇が触れた場所を、髪の毛と一緒に押さえていた。
「っ…………な、なんなんだよ……いきなり」
俺は髪をかきあげ、足を丸め顔を埋めた。
しばらくそうしてると、ラジオから4時の知らせが届いた。
それをきっかけにして、俺は後片付けをはじめ、来た時と同じように荷物を担いで帰った。
別荘へ着くと、他の観察者も帰って来たみたいで、ホールには何人かの人がいた。
俺は望遠鏡を機材部屋へ置くと、すぐさま自分の布団に潜り込んだ。
まだ、全ての神経が額に集中しているようで、なかなか寝付けなかった。
早く寝なくちゃ………
そんな感情だけが空回りして、頭の中は先程のキスに支配されていた。
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