Vol.1

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自宅マンション―――― 「玲奈、今日なんか元気なくないか?」 仕事が忙しくてなかなか会えない中、時間を作ってくれた聖が私のマンションに来て第一声がそれだった。 このところ毎日のように、わけの分からない女たちが来る事は聖には話していない。 きっとなにかの間違いだ…と、自分自身に言い聞かせて、聖には何も言わない事に決めたのだ。浬にも口止めしてある。 それに、最近はお互い忙しくて会う時間も少なく、そんな話をする暇もない。 出張以外でこんな風に会えない事は今までになかったので、少しでも会える時間があれば楽しく過ごしたいと思った。 あの女達の事を話したらきっと楽しく過ごせない… 「大丈夫。少し疲れてるだけだよ。このところ忙しくてさ…」 「そうか?俺も忙しくてなかなか時間取れなくてごめんな?」 「何言ってんの。大変な仕事なんだから仕方ないよ」 「ごめんな…今日はここに泊る予定だったんだけど、この後もまた仕事があって…」 聖はそう言って申し訳なさそうに目を伏せる。 「え?そうなの?だったら連絡くれたらよかったのに。無理して顔出してくれなくてもいいんだよ?」 「何言ってんだよ。俺が玲奈に会いたかったんだ。顔見れて良かった。じゃぁ、またな…」 聖はそう言うと、私の唇に触れるだけのキスをして仕事へ戻って行った… 聖が触れた唇を指先でなぞりながら、聖の出て行ったドアを見つめる。 人は贅沢なもので、一目だけでも会えたらいいと思っいても、実際逢ってしまうと、もっと会いたい…。別れたばかりなのに、もう会いたい…。そんな気持ちが募る。 聖…逢いたいよ…
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