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「改めてまして、あっしが十でございやす。以後、お見知りおきを」
「ど、どうも」
マリアは戸惑いながらも返事をした。十はまた笑顔になった。
「何をそんなに驚く?」
シーフが言った。
「街中に、まさかお仲間がいるなんて」
「そんなに驚く事か?」
「危なくはないのですか?」
義賊の一人が街中で、しかも店を出している事に、驚いたらしい。幾ら彼らが義賊と云われ尊敬されていても、それはあくまでも貧民層からである。上流貴族からは煙たがられている。
「一人くらい、城下町にいたほうがやりやすいんですわ」
十が言った。盗賊たる者、情報不足はそく、死に繋がる。そこで、一人が城下町に潜伏して様々な情報を入手してる訳である。
「それに、十の役割は以外と重要だ」
シーフが言葉を繋げる。
「盗んだ物を、俺達はどうしていると思う?」
「やっぱり…売り払うのですよね」
「そうだ」
だが…、とシーフは言葉を続ける。
「そこには一つ問題がある」
「問題?」
マリアは首を傾げる。
「売るには商人に渡すのが早いが、それだと盗品だとバレてしまう可能性がある」
「そこで、あっしの出番ってわけですわ」
十はドン、と胸を張る。
「予め潜伏させといた奴に商売をさせておけば…」
「あっ!」
マリアは気が付いたようだ。商人が仲間なら、盗品を売り払う事は容易だろう。マリアは分かったと同時に、一つの疑問が浮かんだ。
「それだと、お金が入ってきませんよね?」
「確かにな…だが問題ない」
「…?」
「一つ聞くが…」
シーフは店の奥に歩き出す。そしてマリアに、
「クリス・スティールを知ってるか?」
と聞いた。
「一応面識はありますけど…」
クリスとは執政ガルフ・シバーツの許で働く男である。そのためか、ガルフとクリスは信頼し合っていて仲がいい。家にも度々訪れた。ガルフとクリスが、仲良く談笑してたのを覚えている。
「あの人が、どうかしたのですか?」
「そいつは何か言ってなかったか?」
「そう言えば…大事な絵画が盗まれたと…」
二、三日前にやられた、と自分の父親に言っていた。その時になって初めて、マリアは義賊の存在を知った。
「その事が何か?」
「コイツが分かるか?」
シーフはマリアに一枚の絵画を見せた。それを見てマリアは気が付いた。それは、クリスが盗まれたと言っていた絵画だった。
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