俺達の日常

5/7
前へ
/220ページ
次へ
「改めてまして、あっしが十でございやす。以後、お見知りおきを」 「ど、どうも」 マリアは戸惑いながらも返事をした。十はまた笑顔になった。 「何をそんなに驚く?」 シーフが言った。 「街中に、まさかお仲間がいるなんて」 「そんなに驚く事か?」 「危なくはないのですか?」 義賊の一人が街中で、しかも店を出している事に、驚いたらしい。幾ら彼らが義賊と云われ尊敬されていても、それはあくまでも貧民層からである。上流貴族からは煙たがられている。 「一人くらい、城下町にいたほうがやりやすいんですわ」 十が言った。盗賊たる者、情報不足はそく、死に繋がる。そこで、一人が城下町に潜伏して様々な情報を入手してる訳である。 「それに、十の役割は以外と重要だ」 シーフが言葉を繋げる。 「盗んだ物を、俺達はどうしていると思う?」 「やっぱり…売り払うのですよね」 「そうだ」 だが…、とシーフは言葉を続ける。 「そこには一つ問題がある」 「問題?」 マリアは首を傾げる。 「売るには商人に渡すのが早いが、それだと盗品だとバレてしまう可能性がある」 「そこで、あっしの出番ってわけですわ」 十はドン、と胸を張る。 「予め潜伏させといた奴に商売をさせておけば…」 「あっ!」 マリアは気が付いたようだ。商人が仲間なら、盗品を売り払う事は容易だろう。マリアは分かったと同時に、一つの疑問が浮かんだ。 「それだと、お金が入ってきませんよね?」 「確かにな…だが問題ない」 「…?」 「一つ聞くが…」 シーフは店の奥に歩き出す。そしてマリアに、 「クリス・スティールを知ってるか?」 と聞いた。 「一応面識はありますけど…」 クリスとは執政ガルフ・シバーツの許で働く男である。そのためか、ガルフとクリスは信頼し合っていて仲がいい。家にも度々訪れた。ガルフとクリスが、仲良く談笑してたのを覚えている。 「あの人が、どうかしたのですか?」 「そいつは何か言ってなかったか?」 「そう言えば…大事な絵画が盗まれたと…」 二、三日前にやられた、と自分の父親に言っていた。その時になって初めて、マリアは義賊の存在を知った。 「その事が何か?」 「コイツが分かるか?」 シーフはマリアに一枚の絵画を見せた。それを見てマリアは気が付いた。それは、クリスが盗まれたと言っていた絵画だった。
/220ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1595人が本棚に入れています
本棚に追加