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「どうしてここに?」
「俺らが運び入れた」
シーフはそう言うと、絵画を元の位置に戻した。
「買い手がちゃんといるんですわ」
「どなたです?」
「貴族共だ」
シーフがマリアの近くに来て言った。
「貴族…私達の事ですよね」
「当たり前だ、他に誰がいる?」
シーフはやれやれ、と首を振った。確かに貴族なら、美術品の一つや二つ簡単に買ってしまうだろう。
「でも、怪しまれませんか?」
すると十は自分の口を指差し、
「あっしの舌先があれば、問題ありやせん」
と言った。
「…ところで」
シーフが唐突に口を開いた。
「紅の珠玉を知ってるか?」
「えぇ、そりゃもちろん」
「今度それを盗る」
「……はい?」
十は一瞬ぽかんとし、顔色を変え慌てだした。
「じっ、冗談ですよね?」
「冗談でこんな事を言うか」
「どうして急に?」
十は、額に汗をかいている。
「コイツに頼まれてな」
シーフはマリアを指した。すると十は、マリアの肩に手を置き、
「本気ですかい、嬢ちゃん!?」
と言った。嬢ちゃんと呼ばれる事に慣れてきたなと、頭の片隅で思いつつも、
「はい、本気です」
と言った。すると十は手を下ろし、部屋の片隅に行くとしゃがみ込んだ。
「放っておけ。いつもの事だ」
シーフが横から言った。どうやら、彼にとっては見慣れているらしい。
「あいつは小心者だからな」
シーフはそう言うと、店の外に歩き出した。
いつの間にか、太陽が頭の上に昇っている。どうやら長居をしてたらしい。
「お腹空きましたね」
マリアがシーフに向かって言った。
「………」
シーフは黙っている。マリアは聞こえなかったと思い、もう一度言ってみたがシーフは返事を返さない。
「…シーフ?」
流石におかしいと思ったのか、マリアはシーフの前に回り込んだ。
「…一つ聞きたい」
シーフが口を開いた。
「何ですか?」
「いつになったら帰るんだ?」
「私ですか?」
「そうだ」
彼女は当初の目的は達成した。もう、自分達には関わらなくてもいいはずである。
「撒きについて…」
「貧民に、金や食い物を配る事だ」
マリアが言おうとした事を、シーフは先回りして言った。
「これで納得したか?」
「まぁ…一応」
「なら家に帰りな、服は誰かに送らせる」
しかしマリアは下を向いた。
「…?」
シーフは怪訝な顔をしたが、放ってくわけにもいかないので、声を掛けようとしたとき後ろから、
「マリアか?」
と、声がした。
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