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マリアはハッ、として顔を上げた。シーフから少し離れた所に、馬車が止まっている。そして、今乗ろうとした、貴族の男がいる。
「知り合いか?」
シーフはマリアに聞いた。その声は落ち着いている。いつでも逃げれるといった感じだ。マリアは黙っている。すると男が近づいてきた。
「お仕事はよろしいのですか?」
マリアが口を開いた
「今日は早く終わってな」
「こんな早くにですか?」
どことなく、口調に棘がある。男はくるりと、向きを変え、
「ひとまず、我が家に戻ろう…その男を連れてな」
と言うと、馬車の方に歩き出した。
「…分かりました…お父様」
「なに?」
シーフがマリアの顔を見た。マリアは少しだけ笑みをこぼし、
「あの人が私の父です」
と言った。
「そうか…アイツが…」
シーフが目を細めた。その表情は少し険しい。
「シーフ?」
「…まぁ、いい」
シーフがそれとなく、辺りを見渡した。何人かがこちらを見ていたが、シーフと目が合うと、そそくさとその場を去った。
「どんな家か、拝見するか」
そう言うとシーフは歩き出した。やや遅れて、マリアが後ろに続いた。
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