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馬車の中は、四人が乗れるほどの広さである。馬に引かれ、進む度に振動で微かに揺れる。
「さて…」
マリアの父、ガルフが口を開く。
「おまえは何者だ?」
「お父様、この方は…」
マリアが遮るように言った。しかしガルフは、
「お前は黙ってなさい」
と一蹴した。マリアはムッとしたように、横を向いた。シーフはふぅ、と息を吐いた。
「…俺に何の用だ?」
「その前に名は?」
「あんたに言う筋合いはない」
どうやらガルフとシーフはウマが合いそうにない。
そうしているうちに、馬車が止まった。
「着きました」
馬を操っていた従者が外から声を掛けた。
執政をやっている事はある、とシーフは目の前に建っている家を見て思った。二階建てみたいだが、かなり広い。しかも庭も負けじと広い。
「マリア、お前は着替えてきなさい」
ガルフはマリアに言った。
「…分かりました」
マリアは答えるとシーフにまた後ほどと言って、家の中に消えていった。
「まぁ、かけたまえ」
中に入り執務室みたいな所に来た。壁際には本棚があり、天井に届きそうである。シーフは椅子に腰掛けた。
「あんたは…俺を知っているな?」
シーフは、窓の外を見ているガルフに言った。普通の人なら会った時点で、追い払っているはずである。しかしガルフは、シーフを此処まで連れてきた。つまり、正体を知っていたという事である。
「…娘に何を頼まれた?」
ガルフは外を見たまま言った。
「なぜ知りたがる?」
「…私に頼めば、大概の事はできる」
金はある、とシーフは言外に聞いた気がした。
「金では無理だな」
「…何を盗る?」
執政をやっている事はある。少しの会話で、王の輸送隊から盗む事が分ったらしい。
「魔女の秘具だ」
「魔女…紅の珠玉か」
ガルフは何かを考えてるようだった。少しの間沈黙した後、おもむろに口を開いた。
「止めておけ」
「なに…?」
「貴様ら盗賊が、盗める代物じゃないぞ」
ガルフがシーフの方を向く。
「王の犬が、俺に指図するな」
「そうか…残念だ」
それが合図のように、三人の兵士が入ってきた。兵士たちは素早く剣を抜き、シーフの首に突き付けた。
「どういうつもりだ?」
シーフが言った。その声は落ち着いている。
「娘と盗賊の頭が会った事が分かれば、終わりなのでな」
ガルフはそう言った。
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