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日が落ち、夜になった。マリアは自分の部屋にいた。あれっきり、父親とは話していない。部屋の中は灯りを付けておらず、窓から月の光が入ってくるだけである。マリアは考えていた。確かに、父の言う事は一理あるかもしれない。執政が盗賊と繋がっていたとなると、罷免させられるどころか、国外に追放されるかもしれない。しかし、とマリアは思った。仮に隠すとしても、他にやり方があったのではないか。
(どうしよう…)
父の件もあるが、もしこのせいで、依頼を破棄されたら、すべてが水の泡である。もう一度会いに行くとしても、扉の隣にいる従者をうまく撒かなければならない。
(他にあるとすれば…)
窓から飛び降りるぐらいしかない。しかし自分には、そんなに優れた身体能力はない。
「どうしよう…」
「なにがだ?」
マリアは、自分が零した言葉に返事か返ってきた事に驚き、後ろを振り向いた。月の光が入ってきてた窓が開いている。そこに一人の男が立っている。シーフだった。手には何かを持っている。
「済みませんでした」
シーフが口を開くより早く、マリアは謝り頭を下げた。
「…気にするな、依頼は果たす」
シーフは持っていた荷物を置いた。どうやらマリアが最初に着ていた服らしい。
「用件は済んだ。見付からないうちに退散するか…」
「待って下さい!」
マリアが慌てて言った。シーフは怪訝な顔をした。
「まだ何かあるのか?」
「…お願いがあります」
「お願い?」
マリアは黙ったまま頷いた。その顔は何かを決心したようにも見える。
「一つや二つ増えても構わんが…何だ?」
逆光のため、シーフの表情は読みにくい。
「私を…私を連れてって下さい!」
「なに…?」
「お願いします!」
マリアは再び頭を下げた。
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