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「なぜ、そんな事を言う?」
マリアは頭を上げた。
「私はこの世に生を受けてから、ほとんど外に出た事がありませんでした」
マリアが自分の半生を振り返る。
「外に出るのは危ない…それが父の口癖でした」
「巻き込まれやすいからな…金持ちの子は」
シーフが言う。
「私も最初は、言い付けを守ってきました」
だけど…、とマリアは続ける。
「昨日の夜、外に出てシーフ達に会った時、正直羨ましいと思ったんです」
「羨ましい?」
シーフが疑問を口にする。
「何も縛られるものがない…自由な世界…それを見た瞬間私は此処にいたい、と思いました」
マリアはだから…、とシーフに詰め寄る。
「連れてってくれませんか?」
「……」
シーフは黙ったままマリアの眼を見た。真っ直ぐな眼が、自分を見つめ返してくる。
「本気か?」
シーフはマリアに言った。
「…はい」
「…分かった、連れて行こう」
それを聞いたマリアは喜んだ。
「だが…後悔はするなよ?」
シーフが言う。
「後悔…ですか?」
「やはりこっちが良かったと…」
「大丈夫です、後悔はしません」
「そうか…ならいい」
その時、扉を叩く音が聞こえた。マリアは驚き、慌てた。この場を見られる訳にはいかない。すると、シーフはマリアをお姫様だっこの形で抱えた。
「えっ、何を…」
シーフの突然の行動に、マリアはうまく言葉を繋げられなかった。心なしか顔が少し赤い。シーフは、窓際に歩いていくと跳ぶぞ、と言った。
「えっ、どういう意味…」
それ以上言葉が言えなかった。シーフがマリアを抱えたまま、窓から飛び降りたのだ。二人の姿は闇に消えた。
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