1595人が本棚に入れています
本棚に追加
洞窟を入るとすぐ下り坂になっており、そこを下ると空間が広がっている。普段は長机が置いてあるが、今はどけられ邪魔にならないようになっている。
「さて…」
椅子に座っている若い男がそう声に出し、斜め下方を見た。そこには参と呼ばれた大男が、身を縮ませ正座をしていた。
「さっきお前が持ってきた荷物は何だ?」
若い男が聞いた。その声はどこか殺気がこもっている。参は内心怯えながら、
「若い女です」
と答えた。
「そうだ…お前、掟を忘れたのか?」
「いえ、忘れていません」
「なら第二条言ってみろ」
「…人さらいはするなです」
「よろしい」
若い男が席を立った。
「なら分かるよな?」
腰からダガーを抜きつつ聞いた。
「いかなる理由があろうと破った者には…」
参の首筋にダガーの刃が当たる。
「…死を」
「シーフ様」
若い男、シーフが切ろうとした時、後ろから声が掛かった。シーフが振り向くと眼鏡をかけた男と、先ほどの若い女が立っていた。
「壱か…」
壱は頭を軽く下げ、
「目を覚まされたので、つれて参りました」
と言った。
「ご苦労」
シーフはダガーを腰に戻しつつ、女に歩み寄った。背はシーフの肩ぐらいである。
「俺の部下が迷惑をかけたな」
女は下を向いたまま、何も言わない。
(怯えているのか?)
無理もない、とシーフは思った。目が覚めたら洞窟、しかも見知らぬ男がいるのである。と、不意に女が顔を上げた。その顔を見てシーフは疑問に思った。怯えていないのである。それ所か、微かに喜色が伺える。シーフが内心首を傾げていると、突然女が抱きついてきた。
「なっ…!?」
その場にいた壱や参、それにシーフも言葉を失った。女はぽつりと、
「やっと逢えた」
とだけ言った。
最初のコメントを投稿しよう!