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「先程は失礼しました」
と、女はそう言った。
「気にするな」
椅子に座り直したシーフはそう返した。
「…それで?」
「はい?」
「俺に何か用か?」
さっき女が抱きついてきた時、逢えたと言った。そうすると参は、頼まれて彼女を連れてきた事になる。
「本題に入る前に、自己紹介してもいいでしょうか?」
しかしシーフは首を振り、必要ないと言った。
「どうしてです?」
「…壱」
シーフは顔を動かさずに、横に立っている壱を呼んだ。
「はっ、こちらになります」
壱はそう言うと、本をシーフに渡した。それを受け取り開きつつシーフは、
「あんたの名はマリネイト・シバーツ、通称マリア」
と言った
「えっ!?」
マリアが驚きの声を上げた。シーフは気にせず、
「この国フィレスの執政を務めている、ガルフ・シバーツの一人娘…年は俺と同じ十八か」
それだけを言うと本を閉じ、壱に渡した。壱はそのまま奥にある通路に消えていった。どうやら本を置きに行ったらしい。
「盗みに入る前には…」
シーフは足を組んだ。
「相手を知っておく必要がある」
「…他の人たちの事についても、載ってるのですか?」
「まぁな」
マリアは感心したようだ。そして、
「安心しました」
と言った。
「安心?」
「はい。それぐらいの事をしていないと、わたしの願いが叶いそうにありませんので」
入口側にいた七がひゅう、と口笛を吹いた。頭相手に言うなぁ、といったぐあいだ。
「願い事とは?」
「盗んでもらいたい物があります」
「盗りたい物?」
シーフはオウム返しに聞いた。
「はい。今日よりちょうど一ヶ月後、北の国アリマから運ばれる中にある物です」
「ほう、王に献上される物からですか?」
いつの間にか戻ってきた壱が聞いた。
「はい」
マリアは頷いた。
「まぁ、いいだろう」
「宜しいのですか?シーフ様」
簡単に了承したシーフに壱が聞いた。
「嫌いだからな、あの王は…」
それを聞いた壱は、少し悲しそうな顔をした。
「ありがとうございます」
マリアは頭を下げた。
「それで?俺は何を盗ればいい?」
興味を持ったのか、七達も寄ってきた。
「盗って頂きたいのは…」
マリアは一呼吸置いた。
「紅の珠玉です」
「珠玉…?」
「「……!」」
シーフは言葉を返したが、周りにいた七達は、驚いたように顔を見合わせた。
「どうした?」
シーフは七たちに尋ねた。
「あれは危険です」
五が言った。
「なぜだ?」
「魔女の秘具です」
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