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シーフは向き直りマリアに、
「今日はもう遅い、泊まっていけ」
と言った。
「ありがとうございます」
マリアは頭を下げた。はらりと、長い髪が肩から落ちた。
「六、コイツを案内しろ」
「畏まりました」
六は恭しくマリアに頭を下げた。
「部屋にご案内しますので、付いてきてください」
「分かりました」
「さて…さっきは悪かったな、参」
シーフは参に言った。てっきり人さらいをしてきたと思ったシーフは、参の首を切ろうとしたのだ。
「気にしないで下さい。もう過ぎた事ですし」
参が喋っている横で、七が呆然としている。それを見ていた壱は軽く笑い、
「マヌケ顔になってますよ」
と言った。ハッと我に返った七は慌てたように、
「お頭、本当に盗るつもりですか?」
とシーフに聞いた。
「あぁ」
それを聞いた七はガックリと肩を落とした。
「まぁ、諦めろ。お頭は以外と頑固だからな」
横からで参が慰めてきた。七はジト目で参を見た。
「お前が連れてきたからだろ」
「うっ…」
「あの…一つ聞いてもいいですか?」
マリアは遠慮がちに前を歩く六に聞いた。
「何ですか?」
六は振り返らずに返した。
「皆さんの名前が数字みたいですけど、本当の名前ですか?」確かに頭のシーフを除く、他の人はすべて数字が名前になっている。疑問に感じるのも当然である。
「私たちは…」
六が喋り出す。
「本当の名前は過去に捨てました」
「捨てた?」
「はい」
淡々と、六は喋っている。
「名付けてくれたのはお頭です」
と言うことは、彼女らの頭首は、最初はシーフでは無い事になる。盗賊になった時からシーフが頭首なら、わざわざ名前を変える必要がない。
(つまり、彼が乗っ取った?)
そんな事を考えていたら、六が足を止めた。そして、くるりと、マリアの方を向き、
「この部屋でお休み下さい」
とだけ言った。通路を通り、一直線に進んで最奥の右側の部屋だった。そういえば、曲がり角などがなかった気がする。もしかしたら人工的に作られたのかもしれない。
「私はこれで…」
六はそう言うと、きびすを返した。部屋に入ると、中は人一人が寝れるベッドに机と椅子、壁にはランプが掛けられていた。マリアはベッドに横になり、
「…眠い」
と呟くと、目を閉じた。ランプの火が、マリアの寝顔を描き出していた。
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