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雨が三成の体を叩きつける。
普通の人にはいつもの雨にしか感じない。
しかし…
三成にはやけに冷たく、叩きつけた雨粒が肉を突き破り骨をも粉々にしてしまいそうな、そんな雨に感じた。
(雨とはこの様に冷たく重い物であったか)
呟く三成と一緒に夜陰に紛れ歩を進めるのは、一人の老人を背負った前田玄以である。
玄以は三成と五奉行の職を共にした僧侶の出の大名であり、力士でいうところのあんこ型の体型から、老人を背負う事になったのである。
老人はシワだらけの顔で皮と骨だけの様なか細い腕を、玄以の歩みに合わせる様に力なくぶらぶらさせている。
(決して悟られてはならぬのだ)
老人は何も語らない…。
(これからどうなるのか)
老人は動かない…。
(律儀者の仮面を被った狸がいつ正体を現すのか…。いや…もう動き出しているのやもしれん)
老人は冷たく、そして硬い…。
(まずは兵を…被害を最少に抑えつつ引き上げさせなければならぬ)
老人は死んでいる…。
(太閤殿下…。)
老人は農民出身でありながら立身出世し、この日の本の国の最高権力者にまで上り詰めた豊臣秀吉である。
(殿下よりの御恩、終生忘れませぬ。必ずや秀頼様の元、豊臣政権を磐石な物に致してみせまする。その為にはこの三成、鬼にもなりましょうぞ)
三成を叩きつける雨が強くなり、まるで丸太で殴られながら歩いている様な錯覚に襲われる。
(この雨、拙者に降り掛かるこれからを暗示しておるのか…。)
秀吉の死はとにかく隠密にする必要があった。
この時期、朝鮮半島に出兵した大軍がまだ異国の地に残っており、もし秀吉の死が露見すれば明(今の中国)の援軍も増大し、朝鮮半島は屍の山となりかねない状況にあった。
秀吉はこの日の本の国における絶対的な権力者であったからである。
『とにかく急ごう』
二人は歩を速めた。
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