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初めて夫に出会ったのは十年前。友人の紹介だった。当時私は23歳、夫は36歳。一回り以上歳は離れていたけれど、彼の頼もしさとユーモアに惹かれて、すぐに付き合い始めた。交際は順調で、一年経つ頃にはお互いに結婚を意識するようになり、交際を始めて二年目のクリスマスイヴに入籍した。
「寂しくない?」
故郷から少し離れた土地に住むことになった私に、夫は何度も尋ねた。確かに結婚するまで実家に住み、父母と妹に囲まれて暮らしていたせいか、夫が仕事から帰って来るのを待つこの部屋は少し広く感じていた。その年の誕生日プレゼントは小さな子犬だった。ミニチュアダックスフントの子供で薄茶色の毛並み、好奇心旺盛な目をしたその子犬は、ひなと名付けられた。
ひなは臆病だったが賢く、自分の事を人間だと思っている節があり、しょっちゅう私に叱られていた。反対に夫はひなに甘く、いつも庇うので、ひなは私をライバル視していたようだ。その証拠に私が夫に甘えたり、体を寄せたりすると間に割って入るのは序の口で、ちょっといいムードになって寝室に篭ろうものならドアに体当たりをしてまで雰囲気を壊すのだ。とはいえ、夫を待つ間は寂しさを紛らすいい相棒である。
私達夫婦は結婚前から赤ちゃん大歓迎だった。二人とも子供は好きだし、健康面にも自信はあったので(根拠のない自信だとしても)いつ出来ても構わないという気持ちでいた。避妊はもちろんしておらず、すぐに授かれるものだとばかり思っていた。
それがいつからだろう。少し生理が遅れただけでドキドキして、結局また生理がきて。大丈夫、次こそは。それでも毎月生理がくる。焦る気持ち。余裕がなくなる。なんで?どうして?夫は言う。
「そのうち出来るよ」
そのうちっていつ?友人や同僚の妊娠の報告を聞く度に、余所の赤ちゃんを見かける度に、私の番はいつ?次は私の所に来て欲しいと願う。段々不安定になる心。認めたくない。もしかしたら赤ちゃんを授かれない?不妊?そんなはずない。でも…。
結婚して二年目。夫婦二人とも健康で、避妊もしていないのに妊娠しない。イコール不妊。
パソコンの画面には不妊の定義がくっきりと映し出されており…。
決心がついた。夫はまだ早いと言うけど、私は一日でも早く二人の赤ちゃんが欲しい。不妊治療にトライしてみよう。詳しく検査してもらって、ちゃんとタイミングが合えばすぐにでも妊娠するかも…。
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